時は今
「…僕は由貴に言われた。僕は我慢しすぎだって」
「──」
「でも、言葉に出来なかった。言葉なんかに出来るようなわかりやすい感情──たとえば怒りとか嫉妬とか寂しさとか愛情とか葛藤とか──そういう枠組みの種類では収まらない気がした。だから言えなかった。何も。言葉にすることがつらかったから、由貴に問い詰めることをやめてほしいとも伝えた」
四季はそう言って、少し沈黙した。再び口を開く。
「愚痴でも何でも人に聞いてもらえたらすっとするという人間もいる。でも僕はそうではないんだよ。感情をさらけ出すのがつらいわけじゃないけど、言葉にしただけ余計につらくなるだけのことってある。だって、聞いてもらえただけで楽になれる程度のことなら、最初から言葉にしているから」
「──四季は我慢してない?」
「してない。もしどうしようもなくなったら、僕は忍にいてもらえたらいい」
四季の言っていることは忍にはわかる気がした。
そうだ。心の内を話して楽になれるものなら、最初からそうしているだろう。
「──私もどうしようもなくなった時は四季がいてくれたらいい」
「…忍」
「無理な我慢はしない。ただ、高遠さんとはまだ言葉をあまり交わしていないから。私と高遠さんが話す必要はあると思う」
「忍、人を信じ過ぎないで」
四季は優しい顔で言った。
「言葉を尽くしたらわかり合える、というものではないから」
余計に傷つく可能性を四季は示唆していた。
忍はその言葉に肯定も否定もせず、柔らかく言った。
「人を信じてはいけないと、心から相手のことを思って真面目に言葉に出来る優しい人は、そう多くはないと、本当にそう思う。たとえば人に傷つけることをして傷つくのはその人の感性の問題だと、無神経に丸投げする人もいるけど、私はそういう人は何かが間違っていると思う。こういう考え方が人によっては癪に障ることがあるかもしれないんだけど」