時は今



「──そうだね。でも『傷つくとは思わなかったんです』という理屈がどのような状況にも適用されるようになってしまうのは、完全に狂ってる。傷つけられた時のつらかった感情は、傷ついた人間にしかわからない。それは物事を見定める時のひとつの指針になるよ。少なくとも『傷ついた』と声を発した時に『それはお前の心の問題だ』と、その人が傷つくことをやめようとしない人なら、罰されてもいいと思う」

「…そうね」

 言い出したらきりがないことだというのは、当事者ではない他人か、それで都合が悪くなる者の言い分だ。

 それで、大抵の場合、優しい人間の方が口をつぐんで、泣き寝入りということもあったりする。

 立派に主張も出来なければ、正しくても黙っていろという理屈ではある。

 何が正しくて何が間違っているのかなんてどうでもいいところで世の中は回っていて、強いバイオリズムの波に、取り残されないように、我も我もと乗り込んでいる人間。

 そのしわ寄せで食い潰される人間には誰も責任は取らない。

 そんなものにてこを入れようというほど無謀で傲慢なこともないが、てこ入れしなくても既に十分に傲慢な理屈は通っているのだから、それで「波風を立てるな」という話に至るのなら、常識など何の役にも立たない。

 個人の傷は個人同士でケリをつけていくしかないのだ。

「私は誰にも傷つけられない」

 忍は自分に言い聞かせるように言葉にした。

「どんな嵐が来ても、私は真っ直ぐに立つ。生きるために」



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