時は今
祈はぼーっと四季と忍の方を見る。
「…僕、初恋の人が早瀬ちゃんなんだよね」
「え?」
「だから、いちばん好きな人に好きって言ってもらえなくて、つらかったことってない。そういう意味では僕は幸せな恋をしているのかも」
美歌は「そう」と言い──でも、うらやましいとも狡いとも思わなかった。
祈はそのかわりに失ってきたものもあるのだろう。
自分の場合は──四季に選んでもらえることはなくても、これからもずっと繋がりはあるのだ。妹としてならそばにいられる。
「美歌は、忍ちゃんのことをうらやましいと思う?」
「忍さん?──そうね」
美歌はぽつぽつと語り始めた。
「正直に言ってしまえば嫉妬することはある。でも…忍さんて、何だか不思議な雰囲気の人なの。お兄ちゃんが前の彼女と別れて、その後好きになったのが忍さんで良かったなってほっとしたっていうのか」
忍は四季に媚びを売っている雰囲気がまるでなかった。
少し聞くと四季も「忍には好きな人がいるんだよ」と話してくれたから、忍は興味本位に四季に近づくような人ではないのだという認識が最初の頃からあったのだ。
「…忍さんとお兄ちゃんは一緒にいても何だか自然なの。何ていうのか──由貴お兄ちゃんとお兄ちゃんが一緒にいる時みたいに、しっくりくる感じ。対等な目線の人。お兄ちゃん、木之本真白とつき合っていた時は、年下の彼女だから、お兄ちゃんも頑張って真白のことを守ろうとしているように見えたもの。でも、お兄ちゃんだって疲れる時、あるわ。ううん、むしろ、お兄ちゃんみたいな人には横になりたい時にいつでも横になれるような人の方が合っているのよ。由貴お兄ちゃんがピアノ弾いているそばで、お兄ちゃんが眠っていたりする時ってあるでしょう?あんな感じ。お兄ちゃん、忍さんといる時、何だか自然だもの」
さすがに四季のそばにいるだけあって美歌の認識はしっかりしている。