時は今



「私も──ずっとお兄ちゃんだけを好きでいるわけにもいかないんだけど」

 でも──そうは言っても好きな思いは止められない。

「…何だか、こういう話、ひとりだけぐるぐる回ってて、バカみたい」

 美歌はそう言い捨てると立ち上がった。

「──美歌?」

 祈は美歌のピンとした面持ちを見つめる。

「お兄ちゃん!」

 美歌は四季の方に向かって声を放った。

 と──、美歌は何を思ったのか、軽やかに手すりに飛び乗った。

 音楽が途切れる。

 四季と忍が驚いて美歌の方を見た。

「美歌!」

「美歌ちゃん!」

 美歌は細い手すりの上でぐらつきもせず、立っている。

 バレエのヒロインで言えば、オーロラ姫さながらに、優雅で明るい笑みをたたえた。

 そして、そのまま、2階の高さから、鳥のように、飛んだ。

 スローモーションのように、ふわりと宙に舞った美歌は、柔らかく着地すると、四季の腕の中に飛び込む。

「ふふ。お兄ちゃん、ただいま」

「ただいまって──」

「美歌、今の軽かったでしょ?褒めて」

 美歌の科白に四季は面食らってしまう。常識的に考えれば、「危ないよ」とたしなめるところだが──。

「美歌ちゃん、本当に鳥みたい」

 ヴァイオリンを下ろした忍が、目にした光景の余韻から未だ抜けきらないように言った。

 祈も稀に美しいものを目にしたように呆ける。

「ニジンスキーだっけ?空中に跳躍してしばらく降りて来なかったっていう」

 四季だけがはっとして美歌を怒った。

「美歌、怪我したらどうするの」

 美歌は嬉しそうに四季を捕まえている。

「お兄ちゃん、美歌のこと心配?」

「それは心配するよ」

「じゃあ今日は美歌と眠って?」

 忍の方がそれを聞いて赤くなってしまった。

「…四季、美歌ちゃんと眠ることもあるの?」

 祈がそれを見てほほえましく言った。

「忍ちゃん、うちの子たち、ふつうに一緒にお昼寝してるよ。四季が具合悪くて横になってる時なんかに、美歌がよくそのそばに行って、気がついたらふたりで眠ってるの。何かね、猫がお昼寝してるみたい」



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