時は今
美歌がそれに抗議した。
「その『眠る』じゃないもの!美歌もお兄ちゃんと眠りたいの!」
「美歌」
四季が真面目な顔になる。
「美歌はダメ」
「……」
寂しそうに美歌が俯く。
四季は困ったように美歌を見つめ、頬に軽くキスをした。
「…わかった?」
美歌はそれで気分が少しおさまったのか、こくりと頷くと、パタパタと部屋に戻って行ってしまった。
忍は美歌を見送って、四季に視線を戻す。
「四季、美歌ちゃんて」
「…うん。僕のこと好きだよ。お母さんは美歌のことブラコンだと言うんだけど──」
「美歌はブラコンじゃないよ」
言い切ったのは祈だった。
「四季に夢を抱いているならブラコンだけど、美歌は四季のことも自分のこともよく見えていて、好きなんだから。あの子のは恋だよ」
そんなことをさらりと言う祈にも忍は驚いた。
「四季は四季で、忍ちゃんは忍ちゃんで、美歌は美歌でいいと思う。こういうことはどうしたらいいなんてわかりやすい答えなんかないから」
忍には四季の家の空気がひとつひとつ真新しいもののようで、言葉もなく、受け止める。
「──忍ちゃん、大丈夫?美歌が四季のこと好きってびっくりした?」
「少し…。──あの、いつもこんな雰囲気なんですか?」
「こんな雰囲気って?」
「お父さんも、美歌ちゃんも、話していても心の距離感が近くて…まるで友達と話しているみたいな感じ」
「忍ちゃんはお母さんとは話したりとかはなかったの?」
「…はい。というより母は家にいないことが多くて…。家に一緒にいても、少しでもうるさくすると怒られるから」
忍は、ヴァイオリンを家に持って帰ったことはなかった。母に取り上げられて捨てられるのではないかという恐怖感があり、音楽の先生の家か、静和の部屋に置いてもらうかして練習していたのである。
歌もそうだった。忍は歌いたい時は家ではない場所で練習した。
それはそれとして、美歌が四季のことを好きというのがこれくらい強いとは思ってはいなかった。
美歌にどう接したらいいのか、少しわからなくなってしまう。