時は今
「忍さん、何だか可愛いの」
美歌は真面目に言葉にする。
「とても落ち着いていて、大人っぽいところもあるんだけど、何だか可愛い」
「可愛い?」
「うん。美歌が気にしないようなことに神経が行き届いている感じなんだけど、それが見ていて、こんな人もいるかしらって心が洗われる気分になる」
「…そんな言い方されると何があったのって聞きたくなるんだけど」
四季は少し複雑そうにする。美歌と四季の話し声で忍も目を覚ました。
「……。四季」
「あ、起きた」
「…大丈夫?」
「何が?」
「四季、包丁なんかで指怪我したらピアノ弾けなくなるんじゃないかって」
四季は笑った。
「しないよ。大丈夫だよ」
「そう」
忍はまだ半分眠っているような顔をしている。
「……」
「…忍、眠そう」
「うん。保健室でも眠ったのに。変ね」
「忍さん、さっき泣いていたもの。泣くと疲れるものじゃない?」
「そうね。…何だか今日涙腺の上に浮かんでいる感じする」
目をふっと潤ませるような何処か──何処でもないかもしれないところに、ゆらゆら。
漂っているように。
「ロールキャベツだけど。食べられそう?」
「…うん。美味しそう」
忍が立ち上がる。
廊下を歩きながらさっき弾いていた白鳥の湖を無意識に口ずさむと、美歌が訊いてきた。
「忍さん、文化祭は白鳥の湖なの?『森は生きている』じゃなかった?」
「あ…そう。文化祭は『森は生きている』だけ。白鳥の湖は練習していただけなの。時々違う曲を弾いた方がいいと思って。何かいい曲ない?って四季に訊いたら、バレエ曲は何曲か練習しているって言うから」
「そうだったのね」
「美歌ちゃんは、ピアノとかは?」
何気なく聞くと、美歌は深くため息をついた。
「──美歌ね、ピアノ、だめだったの」
「え」
「もーイライラするの!ピアノの前に座ってると!先生の言ってること意味わかんないし、右手の指と左手の指を別々に動かせって言ったって、出来ないの!だからお兄ちゃんはすごいって言うの!」
一息に言われて、忍はぽかんとする。美歌はさらに続けた。