時は今
「もうね、由貴お兄ちゃんとお兄ちゃんがやってることが、美歌にはわかんないの!聴音とかやっていて、由貴お兄ちゃんが弾いた和音、お兄ちゃんが当てて行くんだけど、和音の数が4つも5つも重なって何でその音ってわかるの?美歌、もうその時点で、ピアノ無理って思ったもの!」
忍は目が点になって、数秒後クスクス笑い出した。
「あーもう、忍さん、笑うー?」
「だ、だって、美歌ちゃん可愛い…」
「だって本当にわかんないんだもの!美歌にはピアノは無理!」
四季もそれについてはいろいろ思い出があるのか、のんびりと語った。
「うん…。美歌はちょっとピアノとは合わなかったね。ピアノの前に座って数分間はおとなしく弾いてるんだけど、10分くらいしたらいきなり、ガーンって鍵盤叩いて、楽譜が飛んで、僕も由貴もびっくりして」
「そう。それで、お母さんが何事かって部屋に来て、お兄ちゃんに『あのベートーヴェンはダメだろう』ってダメ出しするから、『お母さん、あれは美歌だよ』って」
美歌の美少女ぶりからは想像もつかないが、なかなか激しい子供だったようである。
「み、美歌ちゃん、楽しい…」
忍は笑いのツボに入ってしまったようである。
美歌は「まだあるのよ」と笑った。
「ピアノの時間の後、だいたいおやつの時間って決まってたの。それで、美歌、ケーキ大好きだから、お兄ちゃんの分のケーキまでがっついて、お母さんに頭ごんってやられて。お兄ちゃんは『いいよ、お母さん』って言うんだけど、お母さんは『こんな女は甘やかさなくても生き延びるんだから、お前も少しはがっつけ!』って」
「うん。それで由貴はその光景を見ていて、何も言えなくなっていたっていう」
「それっていつ頃のこと?」
「僕と由貴が小学校低学年くらいで、美歌は幼稚園くらいの頃かな」