時は今
子供は変な顔をした。
忍は「じゃあね」と言って歩き出した。
その子と同じように菓子パンとジュースを買ってみたが、あまり美味しくなかった。
(明日は五百円、無いかも…)
忍はそのうち、惣菜のところを見て回るようになった。
今日も食べられて、冷蔵庫に入れておけば明日も食べられるもの──。
お菓子を買うとぶたれた。そんなもの買うなら、明日から無いわよ。
怖かったからお菓子は買わなくなった。
担任の先生は時々心配そうに言った。
「忍ちゃん、給食費、まだなんだけど」
忍の父親が行方知れずなのは周りの大人はみんなわかっていたから、学校の先生たちは忍には妙に優しかった。
でも、何処かつめたい優しさ。
電信柱に挟まれた、名刺サイズのアダルトサイトの広告。
バイト募集、高校生不可。
忍はどんなことをしたら収入が得られるんだろうということに興味が行っていた。
(高校生不可…)
中学生や小学生ならさらに不可なんだろう。
母親が寂しい表情の人だったから、忍は寂しい人にはならないでおこう、と思った。
街のあちこちに見かけるエロサイトの呼びかけを見て、忍は男の人はどうして女の人の裸が好きなんだろうと子供心に思った。
忍の表情は時々無機的なものになったような錯覚を受ける。
美歌が心配そうに見ると、忍は仕方ないことのように言った。
「私には兄弟もいなかったし、お父さんもいないことを周りの大人はわかっていたし──不憫な子でも見るように優しくはされたわ。そういう大人にきつく怒られたことはない」
「……」
「でも私は自分が可哀想だとは思わないけど」
「忍さん…」
「私には音楽があったから。音楽の縁には恵まれたのよ、不思議と」
それでも、美歌には忍のその姿勢が稀有なものであるように思える。
「美歌は忍さんのような境遇に生まれていたら、どうなっていたのかしらって思うわ」
四季が深刻そうに言う。
「僕だったら生きていただろうかと思うけど。忍の小さい頃の食生活聞いていたら、何か──ごめんって思う」