時は今



「どうですか?」

 弾き終えて、ひと呼吸つき、四季が由貴を窺い見た。

 由貴は、素直に畏敬の念を述べる。

「ありがとうございます」

 四季はにっこりした。

「あなたのピアノを心待ちにしています。──ところで、由貴」

「何」

「身体キツい」

「え。嘘」

 そういえば熱があったのだ。元気そうに見えるから忘れていた。

 由貴は四季に手を貸す。

「何でキツくなる前に言わないの」

「今気づいたから」

「何それ」

 ピアノの前に座っているとこれだ。

「風邪?薬飲んだの?」

「ううん。最近は薬飲まないようにしてる」

「何で飲まないの」

「出来るだけ薬に頼らないようにしたくて」

 熱以外の症状はないからただの疲れだろうか。四季は度々こういうことがある。

 ベッドまで連れて行って横にならせた。

「何度あるの」

「さっき測った時は38℃」

「寝てればいいのに」

「千歳が来てたから」

 それで無理をして座っていたのか。

「…気分悪い?」

「少し」

「薬飲んだら?」

「何も食べてないから」

「この先生って」

「…ごめん」

 由貴は四季の髪を撫でて「何か食べよう」と言ってみた。

「何が食べたい?」

「……。食べたいのない」

「消去法にする。濃い味と薄い味、どっちが好き?」

「薄い味」

「温かいものと冷たいもの」

「温かいもの」

「肉と野菜」

「野菜」

「パンとご飯」

「ご飯」

 由貴は少し考えて、訊いた。

「とり雑炊は?野菜多めに入れて」

「……。うん」

 四季はそれでもまだ何か考えている様子だ。

「何?他のがいい?」

「…由貴、僕のところに来てまでご飯作ってたら、由貴の時間なくなるよ」

「俺が作りたいから作るんだよ。四季が気にすることじゃないよ」

 軽くそう言ってのけると、四季が「ありがとう」と言った。

「僕は由貴がいてくれるだけでいいんだけど」

「何言ってるの」

 四季は一瞬、何処を見ているのかわからないような目をした。

 由貴はこういう目を見ると、不安になってしまう。

 四季が何処かに行ってしまいそうで。

 それはもしかしたら、四季も同じように感じているのだろうか。



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