時は今
忍は校舎から出て、運動場を一望出来る木陰に座り込んだ。
どうして今頃あの人が。
もう顔も覚えていないくらいに昔に、自分と母を捨てたのだと思っていた人が、今さら父親だと言って現れたって。
忍は膝を抱え、顔を埋めた。
しばしして四季が忍の姿を見つけ「忍」と声をかけてきた。
「…四季」
忍は若干心配げに四季を見る。
「走って来たの?」
「だって、忍、出て行くから」
「…ごめん。大丈夫?」
「大丈夫。座っていい?」
「うん」
四季は忍の隣りに座り、運動場を見た。
文化祭の準備もそこそこに、部活に熱心なサッカー部や野球部が、練習をしている。
「…楽しそう」
忍は遠い世界でも見るような目をする。
「ああいう人たちを見ていると、同じ学校で学んでいるのに、自分とはまったく別の世界に生きている人がいるんだって思うわ」
「──運動部は僕にも別世界」
四季が何とはなしにぽつりと言うと、忍が四季をちらりと見た。
「やっぱり別世界?」
「…やっぱりって何」
「ふふ。四季だなと思って」
忍は優しい表情をする。
四季は若干傷ついた表情でいたが忍の表情を見て「そう感傷的になることでもないのだ」と思う。
「…忍ってすごいよね」
四季は前から何となく思っていたことを口にする。
忍は何のことかというような顔になった。
「すごいって?」
「僕、今でも、白血病で倒れた時みたいに、急に動けなくなったらどうしようって考えることある。自分でも不安なのに、忍なんかの精神的負担にはならないのかなと思って」
「四季はたまたま早いうちにそういう壁に出会ってしまったから、同じくらいの年の子に比べて負い目を感じやすいだけよ。でもそういうことは、災難は誰にでも急にふりかかるものと一緒で、四季ではなくても起こりうるものだわ。それに…四季が動けなくなったらなったで、多分いいこともあるわ」
「いいことって?」
「それで一緒にいる時間が長くなっても、誰も責めたりしないわ」