時は今
四季にはなかった発想だった。
そうではなくても、幼少の頃から身体の不調があったりすることで「周りに迷惑をかけているのではないか」という負い目を感じながら生きてきている時間が長いため、そういう発想になることがまず考えつかなかったのである。
「盲点だったでしょう?」
忍がいたずらっぽく笑った。四季が頷く。
「盲点でした」
「そんなことであまり負い目を感じなくてもいいのよ」
やがて忍は遠い目でぽつぽつ語り始めた。
「見えるところで、声が聞けるところで、大事な人がいてくれるっていうことは嬉しいことよ。…あの人にはそれがなかったんだもの。顔も知らない、名前も知らない、どんなことをしてくれたのかもわからない、…そんな人が急に父親だと言って現れたって」
四季も忍の話を聞いて想像はしてみたが、想像に余ることのような気がした。
「僕の家は…お父さんとお母さんがいて、どんな仕事をしているのかも目にしてきて、毎日普通に会話もあったりしたから…何だかそういう人を父親と思いなさいと言われると、僕でも戸惑うと思う。父親って何だろうと思って」
「…そうよね」
「でも」
四季はまだ考えるように穏やかに言った。
「僕にもし娘がいたら、娘に拒絶されるのは悲しいかなって、少し思った」
「……」
今度は忍が盲点だった、というような顔をした。
「話はするだけしてみたら?」
四季は端的に言う。忍は「そうね」と呟く。
「話してみないと父親の人となりもわからないし」
仲良く並んでいる忍と四季の後ろ姿──。四季の後を追って探しに来たヴェンツェルは、娘には娘の居場所がもうあるのだ、と直感する。
ヴェンツェルにはそれは少し淋しかった。
「…シノブ」
つっ立ったままでもどうにもならないので再度忍に声をかける。
忍は振り返ると、今度は穏やかな調子で言った。
「お話が?」
ヴェンツェルは話が出来る可能性のかけらを拾ったようでとても嬉しそうにしたが──しおれた表情になった。
「お話はしたいです。ところでシノブ」
「何でしょう」
「私、お腹が空きました。忍を探すので頭がいっぱいになってて、食べるの忘れてました」
忍が唖然とした。
いったいこの父親は。
忍のとなりに座っていた四季がクスクスと笑いだした。
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