時は今
忍と四季は一旦教室に戻り、ヴェンツェルと話をするからということで、その日の練習と文化祭の準備は切り上げることにした。
四季も一緒なのはヴェンツェルが「四季もご一緒に」と話したがったからである。
由貴は──ともすれば胡散臭そうにも見えるヴェンツェルに対して「大丈夫なの?」と忍に訊いてきた。本当に父親なのか、とでも言いたげに。
忍は「大丈夫よ」と答えた。もしヴェンツェルが本人ではなく別の人間だとしたら、そういう人間があえて忍の他に「四季もご一緒に」ということは果たしてあるだろうか?と疑問に思ったからである。
四季は四季で、ヴェンツェルが忍の父親であるなら、聞いてみたいことがあった。
たとえば、ドイツの実家には消息を知らせているのかとか、生家の人間関係だとか、忍が遺産相続をすることになっていることを知っているのかとか。
それから──これから先、ヴェンツェルはどう生きるつもりなのかということも。
「久しぶりです、日本の料理。いただきます」
運ばれてきた料理に手を合わせるなり、ヴェンツェルはぱくぱくと勢いよく食べ始めた。
何も注文しないのも変なので、忍と四季はコーヒーを注文して、ヴェンツェルの向かいに座っている。
ヴェンツェルが注文したのは天ぷら定食と握りで、全部ヴェンツェルひとり分である。
「すごい…」
四季がその食べっぷりを感心したように見ていたが、忍は半ば呆れ顔だ。
「本当に何も食べていなかったんですか?」
「そうですね。どれくらいですかね…」
「もういいです。早く召し上がってください」
「はい…」
ぱくぱくぱく。
ふとヴェンツェルの視線と四季の視線が合った。素直そうな四季にヴェンツェルは好感を持ったのか、にっこりした。
「何か食べますか?ご馳走しますよ」
「あ…いえ。お気持ちだけ。ありがとうございます」
「華奢ですね、シキは」
ヴェンツェルに他意はないらしいが、若干拒食気味の四季には少し心に引っかかる言葉ではある。
忍は何か言おうかとして…やめた。ヴェンツェルに四季のことをあれこれ話しても大事なこととして聞いてくれる人でもなければ意味がないからだ。
その忍の表情をヴェンツェルは鋭く察したようだった。
「…何か言いたいことが?シノブ」