時は今
忍はため息をつく。
「いえ、何でもありません」
「何でもないという表情ではありませんけど。思ったこと溜め込むの、良くないです」
ヴェンツェルは率直な話し方をする。忍は少し考え話し始めた。
「溜め込むというより、話しても意味があるのかどうかを考えて、あえて話さないという選択をする場合もあるということです」
ヴェンツェルもその言い様に真面目な様子になる。
「とりあえず、差し支えなければ、話してみてください。私はシノブとシキのことを知りません。話してみないことには何とも言えないのです」
それもそうである。
忍は四季を気遣うようにちらりと見ると、静かに言った。
「…四季、食べるのが少し苦手なんです」
「え?」
思いもよらない方角からボールが飛んで来たようにヴェンツェルは瞬きした。
「食事、嫌いですか?」
四季は小さく首肯した。
「少し苦手です。無理に食べなければと思ってストレスになったり」
「へぇ…。病気とかではなく?」
「それも少しあります。入院したりしていたので。今は大丈夫ですけど」
「ふむ…」
「だから、美味しそうに食べている人を見ると、良かったなって思ったりします」
「え?良かった、ですか?シキがそう思うんですか?」
「自分が食べるのがつらい時の感覚を知っているから余計にそうなんだと思うんですけど」
「ああ、そうか」
会話をしてみれば意外に、互いに感傷的になるのでもなくするすると反応が繋がって行く感じに、忍は「ああ、話してみていいこともあるのだ」と思う。
だが、忍はコーヒーを飲みながらなかなか自分からは口を開こうとはしなかった。
ある意味、ヴェンツェルへ対する想いの意思表示でもある。
「忍はどんな子でしたか?」
問われて、忍は初めて話し始めた。
「お気遣いなく。特に病気をすることもなく、身体は丈夫に育ちました。成績も人並みには。うちは母子家庭なのだと自分に言い聞かせて育ったので、父親のことは深く考えたことはありませんでした。同級生には嫌われたりすることもあったけど、友達はいます。というより、心の面で家族に支えられている感覚がなく生きてきたので、外に出て自ら関わりを持とうと思った人たちが私の支えでした」
忍は淡々と話した。