時は今



 端正に整った忍の顔立ちには、感情が見えなかった。感情を殺してしまった方がいっそ楽だとまで思ったそれが今の忍を形成している。

 四季は忍の様子に若干の驚きと心配とが派生していた。

(…忍の様子が違う)

 自分と話している時の忍は、もっと柔らかい表情をする。

 由貴に片想いをしていた頃の忍でさえ、もっと柔らかい感じはあった。

(忍──)

 父親に対する忍の心は簡単ではない気がした。

 理性で考えることの出来る忍の心は大人でも、内面的な感情はすぐには納得するはずはない。

 何故なら、現に父親の頬を叩いているからだ。

 それが今の忍の本心。

「私はあなたの神経がわかりません」

 忍は面と向かってヴェンツェルにそう話した。

 感情なんか飛んでいた。

 とうの昔に干からびてしまった感情に感情を籠める必要も無かった。

「あなたにとって家族というのは、ただ血が繋がった人のことを指すのでしょうか。血が繋がっているだけで、生きていても死んでいても、何年間もほったらかしでもどうでもいい人のこと?そんな人に、私が特別な想いを持てるとでも?私がこうして今あなたとお話をしているのは、四季が『話すだけは話してみたら』と言ってくれたからです。ただそれだけ。私は血の繋がった人にはまともに相手にされない生き方を余儀なくされてきました。だから知っています。人は血は繋がってはいなくても家族のように大事にしてくれる人もいるのだと。大切なのはどれだけその人の心と渡り合えて支え合えたのかだということを」

「──シノブ」

「あなたのお話も聞くだけは聞きます。ですが、私にはあなたが私に『会いたかった』と言ってくれた同じ思いを共有することは出来ません。無理なんです。そこは踏まえてお話はするだけなさってください。今まで何処で何をしていたんですか?」

 忍の言い様にヴェンツェルは明らかに気落ちした様子になった。

「シノブは怒っているんですね」

「怒っているのかいないのかなんてどうでもいいくらいに、心の一部が死んでいる感じはします」



< 572 / 601 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop