時は今



 四季はそのまま忍の後を追う。ヴェンツェルは呆気にとられていたが、とんでもない逆鱗にふれたような感じを受け、慌てて立ち上がった。

 ヴェンツェルが店の外に出た時は、忍はもう走り出して、見えなくなってしまうところだった。

 四季が忍の後を追って行くのがちらりと見えて──。

「──シノブ!」

 …ヴェンツェルは忍の姿を見失ってしまった。





 忍はヴェンツェルに追われないよう、食事をしていた料亭の近くの八百屋の角から曲がり、身を隠すように座り込んだ。

 追ってきた四季が忍の姿を見つけ、座り込む。

「…忍」

「…………」

 忍は膝を抱えた腕に顔を埋めている。

「……。…疲れた」

 四季は黙って、忍の頭にそっと手をやる。

 忍は静かな声であてもなく言葉をこぼした。

「私の今まで思い悩んでいた時間はなんだったの」

「……」

 四季は何も言えない。安易な慰めや同情は忍は欲していない気がした。

 四季は少し考えて、言った。

「…ごめん。今、忍に言える言葉、持ってなくて」

 忍は傍らにいる四季に顔を向けると、ふっと微笑んだ。

「──四季がいてくれて良かった」

「……」

「ありがとう。…ごめんね。私のことで」

 ──そういえば、今日は四季のことを走らせてばかりいる。

 忍は四季の頬に触れてみた。

「忍…?」

「四季走らせて、体調崩しでもしたらどうしよう」

「崩さないよ」

「本当に?」

 そう問われると断言は出来ないのがつらい。四季は苦笑した。

「もし崩しても忍といる時間が長くなると思えばいいよ」

「…そっか」

 忍がやっと笑みを見せる。おもむろに四季は立ち上がった。

「お父さんに会わない方がいい?」

 忍は頷いた。

「会いたい気分じゃない。今日はもう。向こうは会いたいと言っていたから、本当に会いたいなら明日も学校に来るんじゃない?」

「かもしれないね」

「行こう。少しバスに乗ろう。ここから離れたい」

 ふたりは来た道には戻らず、向こう側のバスの通る道に出ると、そこからバスに乗った。

 バスの窓から道を歩くヴェンツェルの姿を見かけたが、忍は見ないように目を背けた。

 何故か涙がこぼれてきて、四季が手を握ってくれていた。



     *



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