時は今
「父親って…ドイツの?母親は日本人なんだよね」
「はい。ギリシャの血も混じっているらしいですが、よくわかりません。顔を見ても覚えていなかったくらいですから」
「そりゃ、あんたにしてみれば複雑だね。でも何で今頃あんたに会いに?」
「…会いたかったからだと」
「たったそれだけ?」
「はい」
「…はぁ」
早瀬はわけがわからないというような表情になった。
「そりゃあ、何てゆーか…ね。あんたも苦労だね」
労うような言葉が早瀬からはかけられた。
四季も私服に着替えて来て、居間で話している早瀬と忍に、「忍のお父さんの話?」と普通の調子で言った。
早瀬は四季を見る。
「あんたも会ったの」
「忍のお父さん?…うん。放課後、音楽科の教室にいたら、いきなり忍のお父さんって言う人が忍に会いに来て、みんなびっくりしてた」
「へ?教室に?他の生徒も見てんの」
「うん。最初、由貴が不審に思ったみたいで、忍とはどういうご関係の方ですか?って訊いてた」
「学校だなんて度胸あるね。普通、自分が失踪状態で、何年も会っていない娘なんかに、並の神経の親なら恥ずかしくて、そう大っぴらに会いに行けるもんでもないだろう」
四季はヴェンツェルのおおらかな雰囲気を思い出しながら、ひとこと述べた。
「こだわらない人、って感じだった。結婚したとしても、ふらっと気ままに旅に出そうな雰囲気、あった。あのお父さんなら、この行動もわかる気がする」
「この行動ねぇ…。結婚後に祈がこういうことしでかすような父親だったら、うちの家なら勘当くらいじゃすまないね」
そういえば、隆一郎の実の子である綾川隆史は勘当されていたのだ──。
忍は早瀬の顔をじっと見てしまう。早瀬は、あ、というような顔をして言い直した。
「悪いね。言い方悪くて。根が正直なもんでさ。…お父さんのこと悪く言われたら辛いかい?」
「いえ…。そう言われても仕方のないような人ですから」
「あんたが気にしないならいいけど。あたしや美歌なんかは結構言う方だから、あんたも言いたいことがあったら言いなよ」
「はい」
それで忍の顔に微笑みが訪れる。四季もその表情を見て、安堵した。