時は今
「お母さんは、不安にはならないんですか?」
こういうことは考えてもどうになるものでもない。何処から話していいのかもピンと来ない。
だが忍は、何か早瀬と話してみたい気分になっていた。
「不安って何が?」
「私のことがです。親がそういう人だと、不安になるのではと思って」
早瀬は忍の生真面目な表情を見て、クスッと笑った。
「はは。あんたは傍目にもそんなタイプじゃないよ。親子でも、たとえてみりゃ隆史と由貴みたいなもんでさ」
早瀬の言葉に四季が納得行ったように「そうだね」と相槌を打った。
「隆史おじさんと由貴って言われると何か腑に落ちるものがある」
「だろ?あたしとあの頑固親父だって違うしさ。四季だってあたしとはだいぶ違うし。血縁関係がある者同士ってのは顔形は似たところあるのに、中身なんかはまったく似てなかったり、似ているようで微妙に違っていたりするから、それで理解が出来なかった時に『何でわかんないわけ?』って、つい思ったりするわけよ。でもさーやっぱり人間ってひとりひとり顔形が違っていて、同じにはなれないってのは、意味あるんだね。心もそうで、同じにはなれないけど、相手の心をどれだけ受け入れて自分なりに映し出せるかってのが、その人間の理解に繋がる」
「…そうですね」
早瀬に意外な回答をもらえて、忍はそれまであったもやもやが洗い落とされた気分になった。
親子だからと、親のしていることまでが子のことでもあるように言われながら生きて来たのが、忍にはずっと苦痛だったのだ。
私だって顔も覚えていない父親のことなんて、何を考えているのかわかるわけじゃないのに。
それを子にも責任があることのように。
「あんたのお母さんの仕事を聞いて、あたし、驚いたんだよ。焼き物をしていたらしいけど」
…そうなのだ。
家を出て行くと、1週間くらいは帰って来ないこともある葵は、行方不明になる前までは焼き物をしていたらしい、ということだった。
それは誰が口止めしたのか、葵本人だったのか、忍にはまったく知らなかったことで、隆一郎が調べてくれたお陰でわかったことだったのだが。