時は今
忍は葵がどんなことをしていたのかがわかって、そうだったのか、と心にあった空白をひとつ埋めてもらった気がした。
「母は父からのお金を受け取りたくなかったんだと思います」
忍はぽつりと言った。早瀬と四季は意外そうな顔をした。
「お金?お父さんからそんなものがあったのかい?」
「はい。ふらっといなくなる前に、母の通帳にたくさんのお金が。私はずいぶん大きくなってから聞かされたのですが、母は話したくもないような感じでした。お金だけで女子供がどうにでもなると思っているのか、ふざけている、と。母は父からのお金を使っていませんでした。私の前に通帳を投げつけて、あんたがこれを使いたければ、使えばいいと。それが高校にあがった頃のことでした」
「持ってるの?」
「はい。私も使っていません。父がどんなつもりで母にあげたお金なのか、意味がわかりませんから」
忍の表情を見て、早瀬は不憫になった。
そこでもらえるものはもらっておこうという人間ではなかったのだ。葵も、忍も。
もっとも葵と忍の気持ちはわからないでもないし、それが万が一いわくつきのお金だったりした場合は後々問題が起こりうることもあるから、使わないのは賢明ではあるが。
「忍のお父さん、そのお金をあげていたのだとしたら、それで忍が元気でいてくれていると思っていたのかも」
四季がそう口にすると、忍はそうかもしれない、と思った。
けれど。
「生きているのに言葉も何もなくお金だけって…。意味がわからないわ。どんな理由のお金なのかも」
忍は片手で顔をおさえた。
早瀬はそれ以上お金のことは聞こうとは思わなかった。そんなことは忍の父親本人にしかわからないことだ。
ただ──。
「お父さんとはその話はしなかったのかい?」
会っているのならその話にはならなかったのだろうか。
忍は否定した。
「その話は父からはありませんでした。何かひとことあってもいいはずなのに。というより、父はふらっといなくなったことも、後ろ暗く思う様子はありませんでした。それなのに、私や四季のことは知りたがり、しきりに話せと言います。それでこの人は何なんだろうと思ったんです。腹が立ったので四季と家に帰って来ました」