時は今



 由貴が弾き終えてから、四季も練習したくなったのか、弾きやすい服に着替えた。

「聴いていていい?」

 ピアノを弾いているところを間近で見るのは、由貴にとっては勉強になる。

「いいよ」

 四季はハノンの教本を広げると39番と41番の、C dur、A dur、G durのスケールとアルペジオ、54番と59番のトリルを練習する。

 それからツェルニー40番の35番、36番、38番を弾き始めた。

 四季がツェルニー40番を練習しているのを聴くのは初めてだ。

 と、いうより。

「俺、ツェルニーの練習曲聴いて初めて感動した」

 由貴は素直な感想を述べる。

「いい曲じゃない?35番と38番、僕も好き。36番は本当に練習曲みたいな感じだけど、弾いておくとハノンを弾いた時と同じ効果はある気がするから」

 四季もそう言って笑顔になる。

「ツェルニー40番だと、四季には練習曲になるんだ…」

 由貴にはハノンが練習曲でツェルニー30番をきれいに弾くというのが課題になっているのだが。

「慌てて練習しなくてもいいよ。手を痛めるから。ツェルニー40番なんかは軒並みテンポが速いから、僕も先生に教わっていた時は最初は『テンポは気にしないでゆっくり仕上げて、慣れてきたら徐々に速度を上げて』って言われていたから」

 由貴の表情を察したのか、四季は「ソナチネを課題曲に入れてみる?」と言った。

「いきなり『悲愴ソナタ』のレベルの曲を選ぶのはどうかと思うから。由貴だったら弾けないことはないと思うんだけど、基礎は丁寧に固めてからがいいんだよね?」

「うん」

「ちょっと待ってて」

 四季はソナチネの楽譜を持って来る。

「弾いたことのないソナチネがいい?」

「うん。ディアベルリは何曲か弾いてると思う」

「ドゥシェックは?」

「…どんな楽譜?」

 四季が見せてくれた楽譜はドゥシェックのOp.20。

 由貴は楽譜を見て頭の中で聴こえてくるメロディーラインに「これ、四季が弾いてたよね」と答える。

「由貴、よく覚えてるね」

「うん。聴いてて楽しそうな曲だなって思ったんだけど。俺はこれ、弾いてない」

「じゃ、これにする?ソナチネはそれなりに曲が長いから、ツェルニー30番よりも『弾いた』感は出てくると思う」

「じゃあ、この曲練習してくる」



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