時は今
白王高校に来たヴェンツェルは、再び音楽科の教室に向かった。
四季と顔立ちの似た、由貴という生徒のことを思い浮かべていた。親戚だろうか。後輩らしい生徒には「生徒会長」と呼ばれていたし、忍や四季とも親しいような雰囲気があったから、彼に聞けば何かわかるかもしれない。
ヴェンツェルは校舎に入ろうとして──背の高い男に呼び止められた。
背が高いとはいっても、ヴェンツェルが185センチあるので、ヴェンツェルよりはほんの少し低いくらいだろうか。
それでも182、3センチはあるから、日本人にしては背は高いだろう。
男は背広を着ていた。雰囲気から、白王高校の教師らしいことはすぐにわかった。
「あの、失礼ですが」
「はい?」
「来校許可をとられている方ですか?──いえ、文化祭が近いもので、最近は外部の人間の出入りも多いし、無断での出入りは本校としても困りますから、確認だけさせていただきたいんです」
ヴェンツェルは返答に困ってしまった。先ほど案内を頼んだ生徒が少し困っていたらしい様子の意味がわかった。
案内してもいい人間なのかどうか判断に余ることであったのだ。
「すみません。事前の許可は取ってはいないのです。私、つい先日まで海外にいまして──日本に帰って来たのは、娘に会いに」
ヴェンツェルは正直にそう言うと、教師らしき人物は少々戸惑ったようだった。
ヴェンツェルはごそごそとパスポートを取り出して見せた。
「これ、私のパスポートです。名前はヴェンツェル・フェール。ユリハシノブの父です」
教師が目を見開き、ヴェンツェルを凝視した。
「揺葉さんの?…驚きました」
ヴェンツェルも教師の端正な面立ちを見て、瞬きした。
「先生ですか?娘に教えていますか?」
「私は綾川隆史と申します。数学の教師です。揺葉さんは直接教えている生徒ではありませんが、うちのクラスの子と仲がいいようで、話をすることもあります」
「アヤカワ…」
ヴェンツェルが考え込むように一呼吸置いた。
「アヤカワというのは、よくある名字ですか?さっき、私、アヤカワシキという男子と話をしました。シノブのボーイフレンドのようでした」
隆史は肯定した。
「四季くんは私の甥にあたります。お話の通り、揺葉さんが四季くんの彼女です」