時は今



「両親と住むということは考えにくいわ。住みたいと思ったこともないし。それでも、今までにひとところに身を落ち着けて暮らしていたような生活スタイルの人たちだったら、考えようもあるけれど」

 葵とヴェンツェルが実の両親であったとしても、個の生き方がある人たちだ。

 忍には自分の育った家庭環境は、四季の育った綾川の家のようなところとは真逆のものがあるような気がした。

「忍には、綾川の家は重荷ではないの?僕はこの家で生まれ育っているから、家というのはこんなものだと思っているし、忍のような家庭環境で育っていたらどう感じるのか、わからないんだけど」

 忍は少し考えて答えた。

「まったく重荷ではないと言ってしまえば嘘になるけど、家というのは人間社会を表す最小単位の縮図のようなものじゃないかしら。それぞれの家にある一定の規律があって、それがなくなるとバラバラになってしまうようなもの」

「規律はそれなりにあった方がいいということ?」

「ガチガチに縛るのは好きじゃないけど、たとえば学校とか人の多いところで生徒が好き勝手し放題でいいんだったら、そもそも学校なんか要らないんじゃない?ってこと。自分の都合のいい時だけ所属している学校やら職場やらサークルやら家の名前を持ち出していいんだったら、そこにある人間関係がまるっきり希薄でもいいの?私は面白くないわ。勝手に他人に都合のいいように利用されているだけみたいで。私が自分の父親に対して思ったのはそういうこと。私は私が大事にしたい人間関係の中でなら規律もありだと思う」

 四季の不安そうな表情から何か汲んだのか、忍は頬をゆるめた。

「心配しないで。私は四季の家に来る時、きちんと自分で決めてここに来たんだから。急に来たり出て行ったりなんて、いたずらに人を振り回すだけのようなことはしない。それは自分の両親を見て学んだことよ」

 忍には忍の考え方がある。

 四季は忍の祖母の手紙のことをヴェンツェルに話していたらどんな反応をしたのだろうと思った。



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