時は今
「──忍のお祖母様の手紙」
「ん?」
「知っているのかな。ヴェンツェルさん。どんな内容のことが書かれていたのか」
「あの様子じゃ知らないんじゃないかしら」
「話してみた方が良かったのかな」
「何とも答えにくいわ。親子のことだし、心情的には話した方が良かったのでしょうけど、万が一ということもあるでしょう?話してしまったことで静和が巻き込まれたことに父親までが巻き込まれるというのはごめんだし」
忍は四季の顔を見た。
あの不可解な事故に巻き込まれたことが嘘のように、自分が綾川四季という人の家にいて、こうして穏やかな空気があることが、不思議なものに思えた。
「お祖母様の手紙、ドイツ語の筆記体で書かれているのね。ドイツの人ってブロック体で文章を書くというのはほとんどないの。それに、書く人によってもだいぶ癖が違ったりするし…。私は静和が書く筆記体はよく見ていたんだけど、お祖母様の筆記体は静和とは違うし、ドイツ語もきちんと学んだわけじゃないし…。でも一応自力では訳はしてみたんだけど」
「何て書かれていたの?」
「待って。手紙持ってくる。紙に訳文書いたりして万が一紛失したりしたら何かまた起こりそうで、文章の内容だけを掴んだの」
忍は一旦部屋に行き、手紙を持って戻って来た。
忍の祖母からのコンタクトがあってから四季の方もドイツ語は少しずつ勉強しはじめていた。
が、忍が言うようにドイツ語の筆記体は侮れない。
書き方ひとつ間違えれば、解読不能の文章になってしまったりするし、読みとりも容易ではないのだ。
四季は手紙に目を通してみる。綺麗な筆跡。手紙を書き慣れている人ではないだろうか。
手紙に罫線はなかったが、そこに並ぶ綺麗な筆記体で書かれた手紙は、孫である忍へ対する愛情のようなものが見てとれた。