時は今
手紙の全文はこういった内容だった。相続に関わるような詳しい話は特に記されていなかったが、祖母が忍に宛てた直筆のその手紙を、忍が持っていることが何よりも重要なのだろう。
忍はきれいな祖母の文字を見つめて、指先で文字を撫でた。
その優しい仕草に、四季は訊いた。
「忍、お父さんのことはちょっと置いておいて、お祖母様のことはどうするの」
「……。こんな孫でもお祖母様は理解してくれるかしら」
「……」
「お祖母様にはきちんと会って話をしてみたい。相続の問題も会ってから話すことにするわ。お父さんが私に会いに来ていたことも話さなくちゃ。だってこういう人の人間性なら、息子のために何か残したいという気持ちもある人のはずだもの」
いろいろな雑念を振り払うように忍はかぶりをひとつ振った。
「──四季の体調も安定するといいね」
四季を見つめる忍の目は明るかった。
忍にこういう目をさせることが出来るようになっているのだ。
四季はそれを自覚して、自分の方が心が支えられたような気持ちになった。
「最近は安定している方なんだけど」
「そう?」
「うん。前は由貴が心配して部屋に来るくらいにはね。最近はそういうのない」
逆に骨髄移植をして後の方が、身体の回復が早い気がした。
「それより、文化祭の練習どうしよう。今日こそはと思って、僕、音楽科に合わせに行ったはずなんだけど」
「私も。四季、衣装出来た?」
「うん。忍は?」
「ふふ。出来た」
「え?僕、忍の衣装、一度も見てないよ」
「当日のお楽しみにって、四季には見せていないんだもの」
「ええ?それって…」
「気になる?」
「…なる」
四季は何が来るのか困惑気味の表情でいる。忍は楽しそうだ。
「写真撮ろうね。由貴と四季が並んでるの」
「撮るの?…お祖父様に見られたら何て言われるか、ちょっと怖いんだけど」
由貴と四季のそういう写真を見た綾川隆一郎の反応。…ちょっと想像できない。
「綺麗だと思うから、喜ぶ…かしら?」
「女形の姿とかだったらね。…まだ」
「来年女形にする?」
「待って。来年僕達3年生だよ。そんなことしてられないよ」
「ふふ。…3年生か」