時は今



「忍は余裕ある感じだね」

「──そうね…。今はそうかも。同じ教室にいる子たちが2つも歳下になると、学校の勉強をしながら、私、他の同い年の子達が経験出来なかったものに触れることが出来ているんだわ、って不思議な気持ちになるわ。四季は?」

「僕は、入院していた時に思い悩んでいたことが、今は何となく昇華されている感じ。由貴と同じ教室で勉強が出来る経験は病気になっていなければ出来なかったことだと考えると、すごく不思議な感じはする。つらいことと嬉しいことって同時に成立することもあるんだなと思って」

 忍も四季も、自分よりも歳下の子達と同じ教室で学ぶ状況にあるということに共通点がある。

 ふたりとも特に意識はしていないことだったが、その特有の状況から派生する視野をお互いに持っていることが無意識のうちに何となく相手を理解している、ということもあるのだろうか。

「四季が私を好きになってくれて良かった」

 忍に自然と笑みがこぼれる。四季が好きになってくれていなければ、たぶんこの瞬間はなかったのかもしれないから。

 改めて忍にそう言われると、四季は照れたようにどうしていいかわからないというような表情になった。

「──。ちょっと…ごめん」

「何?」

「忍にそういうこと言われると、なんか…」

「…ふふ。今さらじゃないの?」

「じゃないよ」

 ほてった頬を隠すように、ピアノの練習する、と言っている。

 忍は四季に声をかけた。

「四季が練習するなら、私も合わせる。通してみていい?」

「いいよ」

 忍はヴァイオリンを持って来て四季の部屋に来る。

 音楽を始める時のクリアな空気と緊張感がいい。

「丘野くん、1時間って言ってたよね?」

「うん。1時間」

「じゃあ1時間。計ろう」

 時計を見て四季が鍵盤に指を置く。どの曲が何分くらいで弾けるのかは、ある程度身体が覚え込んでいる。

 ピアノが鳴り始める。

 今、ここにはいないはずの丘野樹の指揮を忍は感じた。

(四季、きちんと音楽科の音を意識して弾いてる)

 高遠雛子や、音楽科の生徒の立ち位置が見えてくる気がした。

 最初の歌が来る。

 忍はピアノに歌を乗せた。



     *



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