時は今
(忍をめぐっての親権──)
もし忍の実の親が、忍を自分の手元に置きたいと言ったら。
「──四季の気持ちはどうなるの?」
親同士で親権を話し合う──由貴にはそういうレベルの問題ではないような気がした。
「双方の親の気持ちがどうでも、忍は四季の家に入るつもりで四季を選んで行ったんだろうし、四季だって生半可な気持ちで忍を家に迎えたわけじゃないと思う。あの綾川の本家で育ったなら。それを今さら何年も行方知れずだった親が出てきてどうのこうのって──親だからってそこまで子供の人生振り回していいの?子供は親の所有物じゃないよ」
隆史には由貴の主張している内容は痛いほどわかった。同時に綾川本家育ちの四季の気持ちも想像に難くはない。
隆史自身が本家育ちで、自分は父親の所有物ではないと家を飛び出して、仁科由真という女性と結婚した経緯があるからだ。
「そうですね…。まあ、四季くんの場合、早瀬や祈くんがついていますから。早瀬が話しに行ったんなら、あの人は遠慮なく言いますよ。揺葉さんは嫁入り前くらいの心積もりで綾川本家に迎えていますからって。ふたりともまだ高校も卒業していないから婚姻は控えているだけでね。揺葉さんが現在綾川本家にいるという時点で、揺葉さんは綾川隆一郎のお眼鏡にかなっているということなんでしょうし」
「……」
由貴は自分にはまだよくわからないとでも言いたげに、ピアノの方を見た。
「何か俺ずっと四季と育ってきて、気持ちは子供の頃から変わらないままなのに、いつのまにか結婚だとか家に関わる話だとか──四季って大変だなと思う。忍もだけど。偉いよね」
そう言って──ふと気づいたように隆史の方も見た。
「──そういえば、親父もそうだよね。高校生で家出る決断しちゃったんだから」
隆史は仕方のないような笑みをふっと浮かべた。
「好きになった人がいつまでも待ってはくれないような身体の人でしたからね」
「でもすごいよ」
由貴は素直な評価を口にする。
自分がもし隆史と同じ状況に立たされたら、涼のためにそうできるだろうかと思うからだ。