時は今
吉野智も由貴の表情を見て、ちょっと考えたようだった。
「ま、涼もいつまでもあんなふうに、生きてるのか死んでるのかわかんないような顔させてんのもなんだし、私もちょっと…委員長が兄貴の話をしたがってたっていうの、それとなく言ってみるよ。それで反応見て大丈夫そうだったら委員長から話してもって感じでどうだ?」
「…大丈夫?」
「大丈夫だろ。話してみないことには何も始まらねーし」
そこで智は時計を見て、「いっけね」と慌てた。
「朝練!じゃな、委員長」
「朝練?吉野さん、運動部?」
「演劇部。たまに、合唱部。朝練は合唱の方」
「そう」
「委員長もいっつもクールにしてねーで、たまにはフルボリュームで歌ってみたら悩み事少なくなるかもよ」
「…そうかもね」
「気が向いたら合唱部でお待ちしてまっす。じゃねー」
ぴしっと敬礼をして吉野智は教室を出て行った。
いいキャラだ。話していて気分が明るくなる。
(…あれ?)
由貴は違和感なく吉野智と話せていたことに、違和感を覚えた。
(俺、普通に吉野さんと話せていたかも)
女の子は苦手だと思っているから話すのも苦手だと感じるのだろうか。
でも吉野智も桜沢涼と話していた時のように、すんなり話せる感じがした。
(──パンダじゃないからかな)
桜沢涼も吉野智も「キャー」という感じの目では由貴を見ていない。だから自然に話せるのかもしれない。
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