時は今



 お昼時間だ。

「ユキりん!」

 呼ばれて、由貴は不機嫌そうに机の上を片しながら言った。

「──そのオンナノコみたいな呼ばわりやめてくれる?」

「いやん、ユキりんたら冷たい。ねねね、ジャンケンしようジャンケン」

 犬でたとえるならしっぽでも振っていそうな愛嬌の振り撒き具合で、本田駿が由貴の顔を覗き込んだ。

「ジャンケンて何で?」

「ジュース買いに行く係を決めるのだ!」

「俺、弁当も飲み物も持って来てるし」

「ええ!?何故にそんなに準備がよい!?想定外よー。あうあう」

「混むよ。自分で行って来たら?」

 由貴が冷たく言うと、黒木恭介がその横から声を投げた。

「駿。ジャーンケーン」

 ポン。

 駿は条件反射でパーを出してしまう。チョキを出した恭介は満面の笑みになった。

「っしゃー。駿、ついでに俺のレモンティー」

「ぐぬぬぬ。このバルタン野郎め!」

「何がバルタン。高校生にもなってそんくらいのボキャブラリーですか?早く行っといでー」

「ひどいよ。由貴、何とか言ってー」

「うん。次頑張ろう」

「そんだけですか!」

「本田、俺んちの弁当上手いぜ。唐揚げあげてもいいぜー」

「なぬ!?肉!?っしゃー!!!」

 俄然元気が出てきたように、恭介からレモンティーのお金をふんだくり、駿は勢いよく出て行ってしまった。

「──扱い上手いね」

 端的に由貴が感想を言うと、恭介は笑った。

「駿は基本いい子だからね。わかりやすくていいよ」

 教室のあちこちに「一緒に食べるグループ」が出来ている。

 由貴は何故か波長が合っているのか、黒木恭介というクラスメイトと一緒にいることが多い。

 その恭介と一緒にいるからか、恭介とは小学校からの縁だという本田駿が自然に由貴に絡んでくるといった具合なのである。

 由貴たちの近くで、既に弁当を食べ始めているグループのひとりが「そういや、由貴ー」と話しかけてきた。

「お前、双子か何か?こないだ、すっげ似てる奴見た。輝谷の制服着てたから由貴じゃないってわかったけど」

「ああ、輝谷なら従兄。綾川四季って言うんだけど」



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