時は今
「えーそんな似てるん?この顔がふたりいんの?」
「いるいる。…あ、でも輝谷のが優しい感じする」
「由貴が優しくないみたいな言い方」
「いや、そーは言っちゃいないけど」
由貴には何となく言わんとしているニュアンスが伝わってきてしまい、苦笑した。
「四季は何処となくふわーっとしてるから。雰囲気が。おっとりしてるし」
「ああ、そうそう。おっとり。俺らと同い年?」
「1コ上。声かけたの?」
「ううん。可愛い子連れて歩いてた」
「輝谷の制服の子だったら彼女だよ」
「マジで?」
四季が連れて歩くような子なら、彼女の木之本真白か、妹の綾川美歌のどちらかである。
輝谷音大附属は女子の方が多い。四季はその容姿もあるし、周りに女の子は集まりやすいのだが、四季はそういうところはきちんとしておきたいのか、彼女か妹以外の女の子と外を出歩く、ということは滅多にないのである。
「由貴もピアノ弾けるんじゃん?輝谷は目指さなかったの?」
「ん…。俺、途中でピアノ弾かなくなった時のブランクがあるから」
「へえ…」
「姫もピアノ弾いてるだろ。たまに器楽室いるし。この間、綾川、桜沢さんと帰ったって本当の話?」
やはり男子の間でも気になっていたことらしい。
否定しても否定出来るものでもない。由貴は「本当」と答えた。
「器楽室で桜沢さん見かけて…。少し気分悪そうだったから送って行っただけ」
静和のことでだいぶ神経張りつめていたようだったから、気分悪そうだったというのはまったくの嘘でもない。
「綾川は桜沢さんに興味ないの?」
…結局周囲が行き着くところはそこなのだ。
由貴は自分の気持ちを適当に話しておくのも誤解が生じるかと思い、涼と話していて思ったことを素直に話した。
「特別にあまり意識したことないけど、話していて楽しかった。好きか嫌いかって訊かれると、好きになるかもしれないし。嫌いではない」