時は今



 由貴は逆に周りが「姫」だと言うくらいには騒いでいる桜沢涼に、実際には積極的に話しかけたりする男子はいないのかが気になった。

「そういえば、桜沢さんて女の子とはわりと話している様子も見かけるけど、積極的に近づいて行く男子って見ないね。中学時代からそういう感じなの?」

「え…。そうだね」

 誰もそれについては否定はしなかった。由貴はちょっと違和感を感じた。

「俺、何だかよくわからない。好きだとか話してみたいって思ったら、俺は話しかけてしまうから。桜沢さん、普通に話してくれたよ。話してみたかったら、普通に話してみればいいんじゃないの」

「──接点の問題じゃないの」

 黒木恭介が指摘した。

「由貴なら桜沢さんの話すことについていけるだろ。学級委員の雑務のことでもそうだし、抱えたことのある似た状況が多そうだし」

 由貴たちのとなりのグループで弁当箱をつついていた塩谷彬文が言った。

「だから姫は姫かなと思うんだけど。俺たちが話すにはちょっと遠い人だけど、実際は同じ教室にいてくれたりするじゃん?その辺の現実に見せてくれる夢みたいな女の子加減がいいというか」

 彬文の向かいに座っていた添石賢が尋ねる。

「あれ?塩谷も姫好きなん?」

「可愛いんじゃないの。彼女にしてみたいかっていうとちょっと違うけど」

 そういう考え方もあるわけだ。由貴は塩谷彬文のように考えている人間もいるのだ、と理解する。

(彼女にしてみたい、か…)

「由貴は?」

 ふっと興味を引かれたように黒木恭介が訊いた。

「え?何が?」

「桜沢さん。由貴なら合っているんじゃないの」

「……」

 そんなこと考えたこともない。

 由貴は言葉に詰まり、考え込んでしまった。

 添石賢がヤバいといったような顔になる。

「綾川がその気だと、姫が好きな他の男、勝てなくね?よそのクラスとかマジで桜沢さんのファンとかいるだろ」

 うーわーカワイソー、という声が上がったりするが、由貴の耳にはそれは意味のないもののように聴こえた。

 勝てるか勝てないかではなく、桜沢涼がどういう人間といたいかという問題ではないだろうか。

(桜沢さんて、どんな男が好きなんだろう)

 そんなことが脳裏をよぎって行った。



     *



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