時は今
「ふーん…」
自分が知らない四季の時間。そんな過ごし方をしていたのだ。
四季がその表情を見てクスッと笑う。
「ごめん。涼ちゃんのこと気になってた?」
「え…と」
「僕はピアノを弾く人として涼ちゃんが気になっただけだから。そういう意味でなら心配しなくていいよ」
「…うん」
心配はしていないが。
四季には彼女がいるし、彼女のことを大事にしていることも窺える。
でも。
「…何かモヤモヤする」
「モヤモヤ?」
「わからない。…俺、涼のこと好きなのかな」
四季は隣りを歩く由貴の表情を覗き込んだ。
「……。それ、嫉妬って言わない?僕がちょっと由貴より先に涼ちゃんに関係すること知っていたから」
「──」
由貴がめずらしく返す言葉なく黙りこくってしまう。
落ち込んで数秒、由貴が両手で顔を抑えて言葉をこぼした。
「あーもー…何?嫉妬って…。知らないし」
「ふふ。頑張って」
「何を?」
そういう感情に対して身軽そうな四季がちょっとうらやましい。それとも。
「…四季も嫉妬することってある?」
真面目に聞いてみる。四季は少し考えて「うん」と答えた。
「体調優れなくてピアノが弾けない時なんかに、由貴みたいな身体だとよかったのに、とか」
「そっちの方向性?」
「方向性って。僕には大事なことなんだけど」
「真白は?」
「ん…。まだそう思えるまで真白のことはよく知らないから」
「…そう」
由貴には女の子とつき合うという感覚がよくわからない。四季は真白のことが嫌いではなさそうだが。
「四季は真白のこと、本当に好きなの?」
つい、そんな聞き方になってしまった。
四季はふわっと由貴を見ると、由貴が四季を見ていて感じていたような言葉を返してきた。
「…嫌いではないよ。僕この歳になるまで、あまり女の子をそういうふうに考えられなかったから、女の子がどうしてそんなに一生懸命になれるんだろうって、気圧され気味なところがあって──。それで、それまで誰ともつき合えないっていう感じだったんだけど」
「真白は違ったの?」
「ん…。つき合ってみたら何か変わるのかな、と思わせてくれたのが偶然真白だった」