時は今



 四季の口調は優しいが、恋をしているというほどのそれはなく、ごく穏やかだった。

 妹の話でもしている時のような感覚。

「たぶん、真白が僕のことを想ってくれているような感情と同じような感情で、僕が真白のこと想ってあげられたらいちばんいいんだろうけど、まだよくわからない。美歌に対して思うような『可愛い』に近いから」

「…そうなんだ」

「難しいよ。想われても同じ想いを返せるとは限らないから。自分から好きになった人ならいいんだろうけど」

「つらくならない?そんなふうにつき合っていると」

「つらい…とは思わないけど。自分が同じものを返せていない気がする、というだけで。一緒にいて温かい気持ちにはなるよ」

「そう」

「僕、恋に関して由貴よりよくわかっているというわけでもないよ。わからないからわからないなりに、つき合ってみようかなって思った子がいただけで」

「──キスは?」

 聞いてしまってから由貴の方がはにかんだような表情になった。

 四季は特に感情を波立たせる素振りはなく、答えた。

「あるけど…。真白を傷つけるようなつき合い方はしていないよ」

 由貴は四季のような感覚が少し不思議だ。

 キスとかそういうものは自分が好きな人でなければダメなような気がするからだ。

「恋愛感情じゃないキスって、ありなの?」

「ん…。どうなのかな。僕、美歌に『お兄ちゃん、キスして』って未だに言われることある」

「──嘘。してるの?」

「うん…。頬にね。僕が横になっている隙を見て襲うのが好きみたい」

「好きみたいって…」

 そんなことを普通に淡々と話している四季も、だいぶ普通ではない。

 そういえば、四季と美歌の兄妹は、普通よく見かける兄妹の雰囲気と違う気がする。

 兄の四季がおっとりしていて品が良い雰囲気だからか、美歌は小さい頃から「美歌のお兄ちゃんがいちばんかっこいい」──で、四季は四季でちょっとやんちゃな美歌をそれなりに可愛がるので、余計にお兄ちゃんにメロメロなるといった具合である。

「普段から美歌とかと触れ合っていることが多いから、距離感が少し狂ってるのかな。妹に『キスして』って言われないよね、普通あんまり」

「絶対言われることはない兄妹の方が多いと思う」



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