時は今
そんな話をしているうちに、四季の家に着く。
玄関の付近で、猫を見かけた。
(静和さん?)
「どうしたの、由貴。ああ、猫?」
「うん」
由貴は何か伝わって来ないか、猫の前に屈み込んだ。
猫も何か言いたげに由貴を見つめたままおとなしく座り込む。
「この子、最近庭でよく見かける。おとなしいんだよ。猫って近づくとパッと逃げそうなものなのに、この子は何だか落ち着いてる。人慣れしてるのかな?」
四季もその猫が好きなのか「由貴を見ても逃げないね」と言って、由貴の傍らに屈んだ。
猫からはあの時のように何か伝わってくる言葉はなかった。やはりあの丘でなければダメなのだろうか。
由貴は猫を撫でた。
「ここだと声が聞こえないみたいです」
そう伝えると猫はわかっているような素振りで、小さく鳴いた。
四季が怪訝そうにする。
「声?」
由貴は四季に「家に入ろう」というように促した。
「この猫のこと、四季に話しておきたかったんだよ」
四季が再び猫に目をやると、猫はさっき由貴に返した鳴き声と同じように、小さく鳴いた。
「…猫、言葉わかってる?」
四季は「そうなのではないか」という思いになり、由貴に訊くと、由貴は否定しなかった。
「うん。わかっていると思う」
*