時は今
「四季、そういうの見たりしたことある?」
そのまま話しても良かったが、さすがに「猫と話した」というと、由貴の方が「大丈夫?」と心配されそうな気配があったため、とりあえずそんな聞き方になった。
「そういうの?」
四季は何のことかという顔をした。由貴は一拍間を置く。
「夏になると聞くものとか、未確認飛行物体みたいな?」
実際由貴が確認した時は、人が──揺葉忍が宙にいたが。
四季は「ううん」と答えた。
「ないよ。ドッペルゲンガーなら今見てるけど」
「…ただの従弟だろう。それは」
「『この間、四季くん、白王の制服着て歩いていたね』って言われたもん」
四季はそう言って、ちょっと困ったように笑った。
自分にそういうことがあるということは、四季にも同じようなことがあるということなのだ──由貴はそこは共感できた。
「俺も今日同じようなこと言われたんだよね」
「そうなの?」
「うん。双子なのかって訊かれた」
「試しに1日だけ入れ換わってみて、僕が白王に、由貴が輝谷に登校してみたら、みんな気づくかな?」
四季がちょっと好奇心をくすぐる発言をした。由貴は想像してしまう。
「俺が輝谷に行ったら…?いや、無理。真白にどう対応していいのかわかんないし、器楽の授業あるし、女の子は多いだろうし、フツーに無理」
「あー…。僕は体育の授業でアウトかな」
「四季、体育は普通くらいじゃないの?」
「由貴ほど運動能力高くないもん」
さらりと言う四季はそれで自分を卑下しているという様子でもない。客観的に自分を見ているという感じだ。
「で、話したいことって?さっきの猫と不思議な現象を見たとかいうのと関係あるの?」
四季が話を戻してくれて、由貴は改めて話し始めた。
「さっきの猫、特定の場所に行くと話が出来るんだけど」
「特定の場所?」
「その猫にとっての思い出の深い場所というか。だからだと思うんだけど」
四季は不思議そうにした。
「特定の場所じゃなくても賢い動物って人間の言っていることは理解するんじゃないかと思うけど…そういうのではなくて?」
「うん。違う…と思う。その猫の思っていることが、俺には言葉になって聴こえたから」