時は今
「忍さんは無感覚になっているの?」
常軌を逸した状況にいる生身の人間とは思えないくらいに、平常心でいられる揺葉忍。
四季にはそれは「ほうってはおけないこと」のように思えた。
忍は澄んだ目で四季を見た。
「こういう状況なら無感覚になった方が、もしかしたら幸せかもしれないとは思うけど」
「そう思うの?」
「うん。心の底でそう思ったから私はこうなったのかもしれないから」
自分を守ろうとする気持ちがそうさせたのか──それなら、この状況は一概に悲観すべきものでもなく、必然だったのか。
静和が言った。
『今の忍は危ういかのように見えますが──ひとつだけ利点があります』
「え?」
由貴と四季は困惑したように返した。
静和は理由を話してくれた。
『特定の人間にしか見えない状態になっているということは、忍を故意に傷つけようとしていた者に、忍は容易には探し出せないということです。よって傷がつけられるということもない。忍は不思議なことに、私と同じような危険にさらされながら、何故か今も生きています。忍は何かそういう星のもとに生まれた人間なのではないかと』
静和が話している間、忍は静和を失うまでに起こったことを思い返しているようだった。
「私はまだ、帰れない」
忍の意志のこもった声。意外にもその声は力強かった。
「私を何故狙ったのか、その真意を知りたい。うかつに帰って同じ目に遭いたくはない。そういう意志で私を探している人間がまだいるの」
忍の言い様はそういう人間がいるということを感じとっているようだった。
「それはわかるものなの?」
四季が訊くと、忍は頷いた。
「虫の知らせ、というのがあるでしょう。気にしていると不安というものはどんどん大きくなってゆくものだけれど、それを受け止めないままでいると、良くない事態になることもあるわ」
確かにそういうこともある。
上手く行かない時。時期を待った方がいい時。
状況的に静観している方がいいのだという様子が忍にも静和にもあった。