時は今
その日は、静和と忍はその丘に残し、由貴と四季は家に帰ってきた。
四季は由貴の家までついてきた。
「四季、あまり忙しくしてると、体調崩すんじゃないの」
早く家に帰った方がいいのではないかと思い、由貴はそう言ったが、四季はそうでもなさそうだった。
「最近、お客様が多いから。家にいてもきちんと和服を着て座っていないとみたいな状況多いから、由貴のところが落ち着く」
「ふーん…」
「何かない?」
「何かって?」
「ゲームでもいいし…。気分転換になりそうなもの」
四季がゲームの話をするのはめずらしい。
というのは四季の好む傾向がピアノやら絵やらなので、四季の部屋にもゲームがあることはあるが、四季がゲームで遊んでいるのはほとんど見たことがないのである。
「四季が好きそうなゲームって、ちょっとわからないんだけど」
「うん。僕もわからない」
「とりあえず、幾つか見てみたら?」
由貴の家にテレビは居間にあるひとつだけである。父親の隆史は由貴のことを目に入れても痛くないほど溺愛しているので、由貴にテレビを買ってあげようともしたが、由貴は「いいよ」と言って断ってしまったのである。
家に上がると由貴はゲームディスクをしまっている棚からソフトのケースを持って来た。
由貴の手に収まるくらいの数のソフトしかないから、それで由貴のゲームに対する興味の度合いが推測される。
四季はどれがいいかパッケージを見て吟味していたようだが、ひとつ選び、起動させた。
ふたりとも先刻の静和と忍のことを話さないのは、現実離れし過ぎた現実を目にしたことに、心の整理がついていないからだった。
ゲームのオープニングがオーケストラを奏でている。ファンタジー世界のリアルな映像の向こうに、四季は別のものを見ているようだった。
ゲームを始めてしばらくして、四季は物思いに耽るように言った。
「さっきの…。桜沢静和さんと揺葉忍さんのこと…どうしていいのかわからない」
由貴は静かに四季の方を見た。四季は困ったように言った。
「『どうにかしたい』と思うのは、他人に踏み込み過ぎている?でも僕は桜沢静和という人の音楽に興味を持っていたし、まさかこういう形で出会えるなんて思ってなかった。だから、出会った途端にこういう『どうしていいのかわからない』立場に立たされて、困ってる」