キズナ~私たちを繋ぐもの~

お線香に火をつけると、懐かしい香りが漂う。

あれから一年たったんだと妙に実感した。


この一年。

長かったのか短かったのか分からないほど、がむしゃらにやってきた。


中途採用では以前と同じような仕事は見つからず、半月かけて見つけた仕事はスーパーの事務だった。

でも環境は悪くはない。
前よりお給料は減ったけれど、自分一人を養えないほどではないし。


誰にも頼らなくなってようやく、色んなことが見えてきた。

仕事で嫌な事があると、食べたくなるのはお気に入りのアイス。

それはいつも家の冷蔵庫にあったもので。
きっと、兄が私の為に買ってきてくれていたんだろう。


泥棒よけに洗濯ものには男ものを入れて干した方がいいよ、と言われて選んだ男性用下着は兄のサイズ。

良く自分の下着を兄の下着に隠すようにして干したことを思い出して、胸がギュッと詰まる。


一人で暮らしていると笑うこともあんまりないのに、そんな事を思い出すだけでひとりでに笑顔が浮かびあがる。

< 294 / 406 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop