龍神
「先に降りなよ~」
なんていう紳士な幸の言葉であたしは先にエレベーターから降りた。
見慣れた廊下が目の前には広がっていて。
「幸、ありがとう」
「どういたしまして~、ってことでじゃあなー」
「うんまたねー」
ひらひらと手を振る幸に笑いながら手を振り返す。
「………って!!」
ゆっくりと閉まりそうになるドアをなんとか止める。
手が痛い痛い痛い!
これが機械と人間の差か!!
「…っ」
…ぐぬぬっ、幸は張り詰めた顔でボタンを連打している!!
閉じるボタンを連打する幸の指はその速さに見えない。
「ちょ、幸くん幸くん。」
「なになに真奈ちゃん。」
「あたしが見えてますよね幸くん」
「実は見えてないです真奈ちゃーん。あれれー?真奈ちゃんどこだろー」
「ここ!ここにいるから!!」
だから目線をあたしに移して!!
ボタンじゃなくてあたしを見て!!
さぁ!さぁ!
「嘘ついたね幸くん。」
「嘘ついたよ真奈ちゃん。」
そして何事も無かったように開いたドアにあたしは引きつった笑みを浮かべるしかない。
もちろん、エレベーターにも関わらず煙草を取りだし吸い始める目の前にいるこの色男にも。