琥珀色の誘惑 ―王国編―
ミシュアル王子に喧嘩を売るように仕向けたのはヤイーシュだ。

その理由が舞に対する恋情のみであるなら、この決闘は本物になる。


「私を殺して……寡婦を妻に娶るおつもりか? それとも、舞を側室にしますか?」


アラビア語の問いに、ヤイーシュは日本語で答えた。

その目的は言わずと知れたことであろう。


「何度も言わせるなっ! 私の妻はただひとりだ。側室も正妃もない。舞ひとりだと言っている!」


ミシュアル王子はこれまでと変わらぬ言葉を返す。

だがそれに、ヤイーシュは表情を一変させたのだ。

彼は珍しく、感情を露わにして牙を剥くようにミシュアル王子に斬りかかった。


「長老方が認めねば、あなたは正妃を娶るよりないはずだ! それに――彼女に男子が産まれなくても同じことではないかっ!」


次の瞬間、ヤイーシュが手にしたジャンビーアの切っ先が、風に舞う白いグトラの死角に消え――。


< 242 / 507 >

この作品をシェア

pagetop