琥珀色の誘惑 ―王国編―
見る見るうちにマッダーフの表情は凍りつく。

元より、マッダーフが切り札の赤ん坊を易々と入国させるなど期待してはいなかった。だが、所在確認の為、必ず何らかの形で連絡を取ると考えたのだ。

案の定、カンマン市の離宮に勤めていたフィリピン出身の少女の縁者に繋がった。


『何のことか……見当もつきませぬ』

『そうか、では教えてやろう。このルナ・アサーニャという娘、ラシードが外国人女性に産ませた庶子だ。結婚を機にラシードは娘を認知し、宮殿に引き取ることとなった。これにより、ルナの全権は父であるラシードのものとなる。――ああ、お前にとっては名も知らぬ娘のことだったな』



まさに苦肉の策だった。

夫となったラシード王子の名誉を守り、ライラの娘を取り戻さねばならない。しかも、その娘は金髪碧眼なのだ。

だが、男にとって庶子の存在は恥にはならない。ましてや相手には離婚経験がある。おそらく、マッダーフもその点を考え、死亡した女性の戸籍を届け出る寸前に買ったのだろう。


舞の願いは――ライラが娘と一緒に暮らせるように、だった。

実の母と名乗れずとも、共に暮らせるのだ。これ以上は望むべくもないだろう。



『黙って祭壇に戻り、ふたりを祝福せよ。マッダーフ、私は先の王太子とは違う。みくびるな!』


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