琥珀色の誘惑 ―王国編―

(25)魔法の瞬間

アラビア語のわからない舞には、意味不明の事態だった。

だがわからないなりに、ミシュアル王子が優勢なのは察しがつく。舞がアバヤの隙間から覗き見た、マッダーフの顔は青褪め、こめかみの辺りが引き攣っているのが証拠だ。


ラシード王子とライラの名前が出て、「サイード(祝福)」がどうとか、「ヤルジウ・イラー(どこかに戻れ)」とか言っている。


と、いうことは――今、結婚の儀式を行っているのはラシード王子とライラなのだ。

そしてシャムスが言った「父親が立ち会い、その結婚を祝福することで正式な夫婦と認められる」の言葉。

それらから導き出される答えは、ミシュアル王子はマッダーフに『式に戻れ』『立ち会って祝福しろ』と言っているのだろう。


細かい点は棚に上げるとして、ミシュアル王子がライラと結婚せずに済んだのだ。舞は全身の力が抜けるくらいホッとしていた。この分なら、ライラの娘の件もきっと何とかしてくれたに違いない。

すぐにでも彼に抱きつき、「大好き」と「ごめんなさい」を伝えたい。

そう思って、舞がミシュアル王子をチラッと見上げた時だった。


舞の目にひとりの兵士が映った。その動きがどこかおかしい。

兵士はミシュアル王子を注視したまま、ゆっくりと背後に回り込もうとしている。そして、ちょうど王子の死角に入った瞬間――。

兵士はジャンビーアを抜き、ミシュアル王子に斬り掛かった!


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