琥珀色の誘惑 ―王国編―
それは初夜の心得から始まり、結婚後の夫の両親に対する挨拶まで“決まり文句”があるのだという。

夫の父親に『結婚に対する不満はないか?』と聞かれたら、二人はそれぞれ『充分に満足しております』と答える。

それには舞もうなずいた。ミシュアル王子に言われるまま、前国王の問いにそう返したからだ。結婚生活には何の不満もなかったので深くは考えなかったが……。


その質問の真意は“夫婦生活”のことだと聞き、舞は仰天した。

花嫁が純潔でなかったので結婚を無効にして欲しい、とか。花婿が初夜から一度も夫の役目を果たしてくれない、とか。結婚そのものを無効に出来るチャンスは、その一度だけ。

ちなみに後者のケースだと、花嫁は純潔が認められ、再び別の男性と結婚するチャンスが与えられるという。


両親や世間に認められ既婚者となった暁には、堂々と夫のことが口に出来る。

何と言ってもそれまでは、二人きりで会うことすら許されない国だ。二人の仲が円満で、新婚生活がいかに上手く行っているか、吹聴して回るのも妻の役目となっていた。


(だからそういう事は先に教えてってば!)


最初に判っていたら、ライラ相手に思いっきり自慢してやったものを。

アバヤで全身を隠すお国柄と思えばこそ、口にするのもはしたない気がして遠慮した舞が馬鹿みたいだ。

挙げ句の果てに、ライラから王族の女の役割を学べ、なんて冗談じゃない。


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