弟矢 ―四神剣伝説―
今から二刻前、無人の関所で彼らは困惑していた。


「――そのように、書かれてあります」

「それは……まずいことになりましたね」


さすがの凪も、高札に記された文面までは、気配で察することはできない。

正三に音読してもらい、蚩尤軍の取った手段に一言呟くと、後は黙り込んだ。だが、同じ事態でも、長瀬は違う判断を下す。


「姫、ここは好機でござる。連中の目が高円に集まっておるうちに、北東に抜けるが得策でござろう」


弓月は顔色を変えた。


「それは……里の民を見捨てよと言うことか?」

「姫のお気持ちは充分に。しかし、我々の人数ではとうてい救うことは叶いませぬ。ならばいっそ、我々が逃げたと思わせたほうが、奴らも里人を解放するのではござらぬかな」


そんな長瀬の言葉に新蔵も同意した。


「そうです、弓月様! わずかでも可能性のあるほうに賭けましょう!」

「勇者の使う手とは思えんな。だが……この窮状では仕方あるまい。みすみす、『青龍二の剣』を渡すわけにもいかんしな」


正三は不満あり気ではあったが、やはり背に腹は替えられぬ、と言うところか。だが、凪はあえて意見を言わず、そのまま乙矢に振った。


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