弟矢 ―四神剣伝説―
「乙矢どのはどう思われますか?」

「凪先生! どうして一々、奴の意見をお尋ねになるのです!?」

「待て、新蔵。私も知りたいと思います。乙矢殿……あなたならどうされますか?」


乙矢の持つ独特な雰囲気は、新蔵も無視しがたいものに感じていた。

だが、それ以上に、弓月が乙矢の名を呼ぶ声が、日を追うごとに、女の色香を含んでくるのが口惜しい。


小さな関所だ。千人溜とはいえ、実際は千人も入らないだろう。それでも、常駐の役人だけでも数十人。別当代として武藤の名があるということは、あの時の百人の兵が同行していることは間違いない。

更に、神剣の鬼。

乙矢は喉の奥から言葉を搾り出した。


「あんたら……本気で思ってんのか? 解放なんてする訳ねえだろ。刃向かう力のない者は、家畜と同じなんだからさ。それくらい知ってるだろ?」


乙矢は、高札を睨みつけたままだ。


「これは戦だ。姫と神剣を守るためなら、ある程度の犠牲はやむを得んだろう」


長瀬の、確固たる意思の前に、乙矢の言葉などきれい事にしか聞こえない。だが、


「戦う力がないから殺されるのか? 神剣を守るために犠牲になれって言うのか? 『護国の神剣』が守るのは、民か? 剣か? いったいどっちだよっ!」


きれい事とは、総じて正しい事だ。乙矢の言葉が正しいのは誰もがわかっている、だが、敢えて長瀬は反論した。


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