弟矢 ―四神剣伝説―
神剣の波動が声となり、乙矢の心に押し寄せる。

まるで右手が柄と一体化したようだ。そこから鬼が体内に潜り込み、脳内に直接語り掛けてくる……。


――奴は敵だ。斬り捨てろ。さあ、お前にはその資格がある。


「……るせぇ」


――敵を殺すのが勇者の使命だ。斬らねばならぬ。


「……うるせぇってんだ」


――お前なら可能だ。お前は選ばれた勇者だ。目の前の敵を斬り捨てろ。お前は誰よりも強い。誰にも負けない。さあ、斬れ。



強くなりたいと思った。

一矢のようになりたい、と。

もし、自分が選ばれた勇者なら、弓月を得ることができるかも知れない、と。


乙矢の中で眠る何かが、鎌首をもたげるように目を覚ます。一矢の影、生まれるべきでなかった自分、永久に出番のなさそうな二番矢を神剣は選んだという。

鬼は乙矢の耳を塞ぎ、視界を阻んだ……。


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