弟矢 ―四神剣伝説―
「鞘を持って参れ」


武藤小五郎は近習の者に命じ、『一の剣』の鞘を用意させた。

鬼になるとわかっていて、自ら抜く者はいない。縛り上げ、阿片で正体不明にしておき、抜き身の神剣を持たせる。次に覚醒した時は、殺人機械のでき上がり、ということだ。

ただ、頃合を見て、止めるのが至難の業だ。

自軍からもかなりの被害を出した結果、鉄砲隊か弓部隊で遠距離から仕掛けておき、いよいよ最期にとどめを刺しに行く、といった感じか。


「弓部隊が全滅と聞いて憂慮したが……愚か者が自ら犠牲になりおったわ」


武藤はホッとしてそんなことを呟いた。



「鬼には鬼、か。さて、最後の鬼は誰が倒す?」


狩野天上の嘲笑を含んだ声に、武藤は反論する。


「知れたこと。仲間を救おうとすれば、犠牲が出るのは必須。ひとりでも奴らの数が減れば、あの方も、お喜びになられるであろう」

「減らぬ時は?」

「鬼と化した男は確実に死ぬ。遊馬の剣士なら、この……腕の持ち主とは比べ物にならぬ。易々と、仕留められるとは思えんな」


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