弟矢 ―四神剣伝説―
そう言いながら、鞘に納めた神剣から柄に執着する腕だけを引き剥がした。未だ神剣を探しているのか、わずかながら痙攣するそれを、武藤はゴミのように投げ捨てる。

どうせ、いつもながらの薄ら笑いを浮かべているのであろう、と狩野を見た瞬間、動きが止まった。狩野は言葉もなく、一点を凝視したままでいる。


「――狩野様? どうなされた」

「鬼の動きが止まった。愚か者が増えたか……或いは」


感情の消えた狩野の顔は、まるで能面のようだ。

ハッとして、武藤が柵の向こうに視線をやったその時、この日、三度目となる神剣の波動を捉えた。ご神体よろしく、桐箱に納められた『青龍一の剣』からも同じ気が立ち昇る。


「なにぃ! 今度はいったい」

「余計な者を……目覚めさせたやも知れんな。私も行こう」

「お待ちくだされ、狩野様。ここは、拙者が決着をつけて参る。手出しは無用に願おう。――全員突入だ!」


武藤の声に蚩尤軍は、里の中央に向かってなだれ込む。


「貴様はそれを持ってついて参れ」


近習のひとりは恐る恐る桐箱を抱え、武藤の後に続く。いざと言う時は……。


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