弟矢 ―四神剣伝説―
蚩尤軍(しゆうぐん)――突如、四天王家に襲い掛かった幕府軍を名乗る一団の呼称だ。老中が裏で糸を引くとも言われるが、証拠はない。

表立って連中を率いるのは、頭部を覆い隠す鉄兜をかぶり、顔を隠した男であった。


奴らは、『護国の四神剣』を集めて回っている。

弓月と共に逃げ延びた叔父、遊馬凪(あすまなぎ)が言っていた。

奴らは伝説を逆手に取り、鬼を作り出して、戦(いくさ)に使う気なのだ、と。そして、その妨げとなる勇者の誕生を阻止するために、四天王家の血統を絶やそうとしているらしい。



四天王家にはそれぞれに隠れ里があった。

領内に点在するその場所を隠れ蓑に、弓月らは移動している。だが、そこの安全が保証されるのも、遊馬家の場合は領地である東国(とうごく)のみ。他三家の領地では、どこに隠れ里があるのか知らされてはいないし、辿り着いても助けて貰えるとは限らない。

その危険を承知で、爾志家の領地である西国(さいごく)に弓月らはやって来た。


この一年、もたらされた情報は全て悪いものばかりであった。


北国(ほくこく)の喜多一門の宗主、喜多九拾朗(きたくじゅうろう)は蚩尤軍によって惨殺された。

妻と長男も殺され、わずか八歳の次男は行方不明だという。神剣『玄武(げんぶ)』の所在もわからない。


南国(なんごく)の皆実一門は宗主、皆実宗次朗(みなみそうじろう)の死体こそないものの行方知れず。神剣『朱雀(すざく)』も不明との連絡を受けた。


そして、一矢は東国からの帰路で待ち伏せに遭い、現場には、供の者全員の死体と真っ二つに折られた一矢の刀が残されていた。


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