弟矢 ―四神剣伝説―
「では、縁の者が次々に犠牲となる中、一年もの間姿を隠しておられた勇者殿の責任は如何致します?」

「姫、それは」


許婚に対して、あまりに殺伐とした口調だ。これまで控えていた長瀬が諌めようと口を開くが、弓月はそれを無視した。

乙矢の態度はともかく……さりげなく、全ての責任を弟に押し付けようとする、一矢のあまりの言い様に、弓月は声を荒げずにいられない。

思い起こせば最初に会った時から、一矢は傍若無人で自信過剰の男だった。実力の伴う自信や揺るぎない信念は、その一瞬、誰もが目を奪われる。しかし、今の弓月はそんなことでは誤魔化されない。一矢の、弟に対する理不尽な責任転嫁は、当の乙矢に代わって厳しく追求するつもりでいた。


弓月のあまりの剣幕に、乙矢はおろおろしていた。

なぜなら、一矢は表には出さなかったが、弓月に対する怒りを瞳に映したからだ。おそらく、気付いたのは乙矢だけだろう。

一矢に浮かんだ負の感情は、すぐに消える。

そして、弓月の問いに躊躇いながらも答え始めた。


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