弟矢 ―四神剣伝説―
一矢の声は苦悩のせいか震えていた。

乙矢には反論する術など残されてはいない。


「お前が一門を裏切ったと知れば、弓月殿はどう思われるか……それでも、お前を庇うと言われるであろうか?」

「違う! 裏切ったんじゃない! 目の前で、あの武藤小五郎って奴に姉上を攫われて……妙な仮面の男が出てきて言ったんだ。欲しいのは『白虎』のみ、と。神剣さえ手に入れれば、姉上も返すし、領地より立ち去る。俺は……俺には、神剣より姉上のほうが大事だった!」


それは、乙矢の罪の告白だった。


「たわけっ! その神剣で『白虎の鬼』が作られ、父上は闘って首を刎ねられ……母上も殺された!」


兄の言葉は真実だ。乙矢には言い訳のしようもない。


「お前が助けようとした姉上も、武藤とやらに辱めを受け、首を吊って果てたのではないか? お前は誰ひとり、助けることなどできなかった! あれほど言ったはずだ。何もせずとも良い、と。なぜ、私の帰りを待たなかった!」

「そ、れは……」


一粒……二粒、と涙の雫が床の板を濡らした。言葉にできず、乙矢の頬を涙が伝う。


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