弟矢 ―四神剣伝説―
「『白虎』は最強の神剣。父上すら不用意に触れようとはなさらなかった。お前も『青龍』を手にしたならわかっただろう? 鬼は容易く人の心に入り込む」


最も力の弱いと言われる『青龍』、しかも『二の剣』だけで、あれ程の力持つ。それが『白虎』や『朱雀』となれば、心に邪気を抱えたものが近づくだけで、鬼の影響を受けると言われている。

『白虎』は一瞬で狂気し、『朱雀』は徐々に侵される、と。


基本的には、安全装置の役目を担う“鞘”から抜かぬ限りは鬼にはならない。

だが、四天王家の歴史を紐解けば――その役割は、神剣に心を惑わされた『鬼』を鎮めるのが務めともいえた。乙矢に言わせれば、神もこんな危険なものを作らなくてもいいのに、といったところだ。

だが、乙矢が死に掛けた毒……『附子』にしても、使い方さえ誤らなければ強心、鎮痛の薬となる。

ただ、得てして間違った方向へ進みたがるのが、人の性と言うものではあるが。


「爾志家が守護する神殿には、幾重もの結界を張ってあった。その中に、厳重に保管されていた神剣が易々と盗まれるはずがない。――乙矢、お前も覚えておろう? かつて、私たちはその神殿に忍び込み、あの神剣に触れたことを」

「あれは……あの時のことは……よく」


覚えていない。と、乙矢が言う前に、


「『白虎』に触れ、鬼にならず戻ったのは我らふたりのみ。私はあの時、西国には居なかった。さすれば、あの剣を持ち出せる者はひとりしかおらぬ」


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